五斗米道布教記3

準備は整った。
出撃するは張魯率いる2万の軍勢と、張衛率いる1万の軍勢。
剣閣には3千しか兵士はいないが、背後の梓潼には4万もの軍勢がいる。
我々が剣閣にたどり着く前に、剣閣に入られる見込みが強いためにこういった全力を尽くした陣容となっている。
当然、楊松は漢中でお留守番。


出撃してみたら驚くべきことが起きた。
どうやら永安も同時期に劉表に攻められているらしく、梓潼からの輸送は永安へと向かっていった。なるほど、城の方が大事か。だがな、張魯に剣閣をくれてやった事を後悔することになるぞ。


呆気なく落城。


今後この勢いを買って梓潼へとなだれ込むか、剣閣の防御を高めるか、を迷っていたら、張衛がやってきた。
「兄上、何を迷われます。兵は軌道なり、神速を尊ぶ。というではないですか。出撃の司令を!」
何いってんだ。コイツ。大体意味ちょっと違うんじゃね?
しかし、梓潼には2万の兵士しか残っていない。今だ。


僅かな負傷兵の調練が終了し次第、先と同じ陣容で攻めこんだ。
二つのセイランがじわりじわりと梓潼へと近付いていく。
たまらず呉懿とやらが出撃してきた。
うっわー。そういやこっちはセイランじゃねえか。通常の陣の攻撃には弱いよー。オマケに敵は魚鱗。見る見るうちに張魯の兵が15000にまで減らされる。
虎痴、虎痴、助けてーーーー!
黙って虎痴が突っ込んでいく。そういや今までコイツはなにやってたんだ?わざわざ奮闘で陣に加えていたのに。馬鹿はこんなときしか能がねえんだから働けよ。
虎痴、奮闘。それに高涼が呼応。
ざっと5000の死骸の山を築き上げる。コイツら死神か?
「ようし、僕も!」と調子にのって張衛も斉射を発動させた。
呉懿曰く
「そんな攻撃、毛ほども効かんな。」
見事敵兵200名を討ち取る。使えねえ。
呉懿はそれでも梓潼危うしと見たのだろうか、城へと引き帰していった。
我々はそのままなだれ込み、城を取り囲む。
セイランの上から矢を雨のように打ち込んでいたら、敵将張任が切れた。斉射を打ってくる。
ふふん。そんな攻撃毛ほどもきかんな。と敵将を真似てほざいてみたら、遠慮無く2000名も死んだ。大打撃じゃねえか。おまけに張任は城壁の最先端に立ちあがり、何か言っている。
「敵将!食らえ!!」
あんなとこから届くわけないじゃん。「食らえ?」プッ。かっこつけちゃってさ。
その直後。張魯の肩に矢が突き刺さる。
「ぎゃ!!!」
あわわわわわ。痛い痛い。
そんな兄の危急存亡に孝行弟張衛が切れてまたしても斉射を発動!
張任曰く
「そんな攻撃毛ほども効かんな。」


その後張魯は陣の一番深いところで寝ていたら、賈クの混乱により勝負は一方的となり梓潼は落城した。
この戦の張衛の敵にことごとく兵法を止められるという獅子奮迅の活躍が遠く揚州まで届いたのだろうか、揚州の赤子は「張来来」というと黙るらしい。きっと呆れているんだろう。


呉懿とやらを捕らえていた。
賈ク曰く「結構使えるよ。」
とのこと。でもなあ、どうせ懿なら司馬さんとこの懿がほしいよう。
そんなわがまま言ったら賈クに怒られるだろうから黙ってた。
大体矢傷が重くてそれどころじゃないので、人事は賈クと閻圃に任せたら呉懿を始め3名の人間を手に入れた。


新加入の人間と賈クと閻圃が目を血走らせて開墾をしている最中、調練も終り、暇で暇で仕方の無い虎痴がやってきた。
「殿様〜、オラも国のこと考えただ〜。」
またかよ。だから貴様は頭使わずに体使えよ。開墾の手伝いとして木の根っこでも引っこ抜いてこいよ。
「この稜択とかいうヤツは見込みあるぞ〜。鍛えよう。」
貴様の「国を考える」ってのはマッチョをみつけてくる事か?筋肉は世界を救うのか?
面倒になったので、救いがたい筋肉信仰者に鍛える事を任せることにした。


やっぱり前と同じで筋トレしてんのかな、と思い見に行ったら案の定
「サー・イエス・サー!」
「声が小さい!」
「サー!」
「フンッ!貴様は黒いな。この黒いのはシミか?フフン。」
「サー・ノー・サー!」
「貴様はママとパパのベッドのシミだ。解ったら調練開始!」
「サー・イエス・サー!1,2,3,4、マッスル、マッスル!2,2,3,4、マッスル、マッスル!・・・・・・・・・
やっぱり。
ゲンナリしたので帰った。


日々の何もしないという静養が実り、矢傷が治ったので全国に大々的に
張魯、死の淵をさまようほど致命的な矢を受けたが、その奇跡のパワーで全快!」
とPR作戦を展開しようと賈クを呼んだ。
なあ、賈ク。こんなことしようと思うんだけど。
成都の兵力は手薄です。」
いや、だからさ、僕は教祖でしょ?だからこういった奇跡じみた逸話を広げると馬鹿な民草は信じちゃってさ、
「今こそ好機!」
・・・・・はあ。
「教祖自らが先陣となって攻めましょう!」
バ、馬鹿な。先陣?相手はあの張壬だよ?だいたいさ、「討死無し」でやってるけど希に死ぬんだよ?もし僕が張任に打ちぬかれて死んだら、ほら、血縁って張衛じゃん?アイツが後継ぐんだよ?無理の無理無理、だから僕はもう2度と先陣には立たない方がいいと思うんだよね。それからさ、漢中をいつまでも楊松に任せておくのって博打じゃないかな。
危ないよ。それにさ、僕さ、漢中をイスラムにおけるメッカのように巡礼の中心地にしようと思うんだ。だからさ、僕はやっぱり現人神として中心地に鎮座している必要があると思うんだよね。おお、我ながらナイスアイディア、僕は漢中で信徒を正しい道に進ませるよ。
「解りました。戦略としては教祖が北方に睨みを効かせ、我等が巴蜀を制するという事でよろしいですな?決して教祖が張任にビビったのでチキンである、等ではないという事でよろしいですな?」
うん。ヨイヨイ。さすが賈クだよ。よろしくネ。


そうして張魯は漢中を一大メッカにするべく、漢中に戻っていった。
漢中城はしばらく見ないうちに、見るも耐えがたい酒池肉林の宴が連日行われた後があった。
楊松を呼んでしかってやろうとしたら、
「ぐへへ。教祖。こんな娘がおりますぜ。鍛えましょう!」
そういって項梅鱗という名の一人の娘を連れてきた。
ほう、ゲニ美しい。私自らが鍛えて進ぜよう。


日々の口説きに耐えたからだろうか、鱗は見事心功を得とくした。
が、そんな蜜月のような生活は1通の手紙によって打ち砕かれた。
「母が危篤なのです。張魯様、私は実家に帰ります。つきましてはその御許しと、奇跡の薬をいただきたいのですが。」
う、う、そんな薬ねえよ。だいたいさ、僕教祖なのに「治療」とか「妖術」とかもってないじゃん?解れよ。それくらい空気読めよ。
でも、そう言ってしまうわけにもいかないので、
「うむ。実家に変える事を許す。薬に関してだが、非常に言いにくいが貴公の母者の星を見るに、天命が切れかかっておる。これはもう薬でどうにかなるものではない。貴公は一刻も早く帰って看とってやれ。」
と言ってやった。ナイス嘘だね。


そうしたヌルイ日々を張魯は送っていたが、賈ク等文官は寝る間も惜しんで開墾を行った。
その成果もあり、梓潼の開発は民心、収益、開墾、全てが終了した。
稜択も虎痴のキチガイじみた調練を終え、武力92という筋肉を手に入れ、兵法も高涼と同様に各種取り揃えていた。知力も72。何故だろう。虎痴に鍛えられるとある程度の教養が身に付くのか?反面教師か?


全てが揃った。
問題は永安に向かうか、成都に向かうか、だ。
この2択は重要だ。賈クのセンスが問われる。