五斗米道布教記5


永安に攻め入るには、最も近い梓潼からでも10日以上かかる。敵兵は劉表争った襄陽防衛戦で痛んだ1万の弱兵と、厳顔というジジイだ。
とはいえ侮るわけにはいかない。セイランで10日、悪くとも20日で敵城に到着せねば、士気に関わる。まったく、チョットやそこらの行軍でへたばるような調練は積んでいないはずなのにな。毎日毎日虎痴に木刀片手に追いまわされた兵なのだから、血管浮き出ていて、28時間連続行軍などチョロイと思うのだがなあ。


困ったので賈クに助言を仰いだら、
「簡単な事です。巴西の地に陣を築けばよろしいでしょう。幸い永安には1万の兵が篭るのみ、かの名将厳顔といえども目の前に陣を築かれながら歯噛みしてそれを見守るしかありません。まああの単純老人のことですからな、ただでさえ少ない兵を割いて築陣中の我が軍に襲いかかってくるやもしれません。そうなればしめたもの、梓潼よりスイコウ陣形にて兵を派遣し城外にでてきたジジイを叩き伏せれば良いだけの事。とにかく陣を築く事は一石二鳥です。」
あいかわらず何を言ってるのか良くわからない。がとにかく陣を作れということらしい。だんだん賈クも僕の頭の悪さがわかって来たみたいだな。


陣を作るに当たっては、呉懿を始めとする降将を担当に任じた。1度裏切るやつはまた裏切るからな。こういった死地での作業が適任だ。
と、賈クに対するストレス発散を、降将に対して行い、主力を梓潼に集結させた。当然楊阜や賈クがいるので閻圃や楊拍といった者はすでに2流であるので、成都で血反吐を吐くまで開墾の毎日だ。米を、五斗の米を!

戦前会議の席中、呉懿
「この陣を築いたら、信用してくれますか?」
といった内容の事を言ってきたので、信頼するわけねーじゃん、と思ったが
「既に貴公らは我が信徒。信徒は教祖を信じる。そして教祖は信徒を信ずるもの。なにを今更もうすのか。」
と言っておいた。見事呉懿は感涙にむせび泣き、生涯の忠誠を誓った。
チョロイな。
わかったらとっとと陣作れよ。いつまで泣いてんだよ。

製作途中、厳顔の悔しがる歯軋りの音は聞こえたが、意外にもあの老人、辛抱という行為を完遂し、陣は無傷で完成した。
一気に3万の兵士と虎痴を始めエースを入陣させ、直前演習を行わせた。
「お米の中には7人の神様がいます!」
「お米の中には7人の神様がいます!」
「我等信徒は死せども五斗米道は生きる!」
「我等信徒は死せども五斗米道は生きる!」
「五斗を追う者は幸せを得る!」
「五斗を追う者は幸せを得る!」
兵たちはみな口を揃えて、僕が寝ずに考えた教文を読み上げる。中々様になってるじゃないか。こんどコレを教行信書として全国に売り出そう。
と、その考えを賈クに話したら、
「そんなことより、是非次の戦では私に妖術を使わせてください。お任せ下さい。妖術、妖術。」
と、峨眉のジジイからむしりとった書籍を片手にわめいてくる。
そんな知力上がったり妖術が使えるようになる本じゃなくてね、僕が言いたいのは信者たちの金をむしりとるための僕の本でね、「幸福の法」とかって名前でもいいからさ、発売をしたいのよ。
「妖術、妖術!」
・・・・・。


賈クの要求を飲む形で、一軍を高涼が率い参軍に賈ク、副将として呉懿等降将を。二軍は張衛が率い参軍に楊阜、副将として稜択を。それぞれ15000で出撃させた。
劉璋は慌てて江州や雲南建寧から援軍を送り出したが、時は既に遅い。我が軍は10日以内で城を取り囲み、蟻一匹這い出る隙もない包囲戦を展開した。
稜択が連射を発動させれば、張衛は見事連射を会得。
呉懿が連射を発動させれば、高涼が連射を会得。
おお、こいつら、素晴らしいじゃないか。うんうん。
楊阜が混乱を発動させれば、稜択が斉射で呼応。
信徒同士の見事な連携により、さらに10日かからず永安は落ちた。
あれ?そういや賈クは?妖術は?


かえって来た賈クに「妖術は?」といびったところ、
「いや、その、習得が、足りないっつーか、でも、次は、」
と歯切れの悪いこと甚だしかった。可哀想になってきたので、厳顔はどうした?と聞くと、
「かの老将は自ら何もすることなく、混乱した兵の沈静化をしていた隙に城を落とされた事を悔やんでおり、牢獄では「殺せ!ワシを殺せ!」と叫んでいるようです。まあジジイ一匹増えたところで上がるのは平均年齢だけですが、老人だけあって妙な特技をもっています。「連弩」っていうんですが、凄いらしいですよ。弓を連続で数本吐き出す特殊な弓らしいのですが、これの使い手らしいです。まあ今後の歴史を考えるに、使われなかったことを思うと殺傷能力や実用性においては多いに疑問ですが、当世界においてはまこと屈強な殺傷力。ジジイは殺さなくても勝手にそのうち老衰で死ぬでしょう。だったら連弩の技術だけでも盗んでから死んでもらいましょう。そこらに生息する暖かい日だけ外出する使い道の無い昆虫みたいなジジイに比べたら、使い道のあるジジイですよ。」
と、饒舌に話すので、仕方ないのでわざわざ漢中の地から牢獄に挨拶にきたら
「貴様が邪教の教祖か!我が一族は代々一向宗だ!そんな邪教に転んでたまるか!」
と頑固な事頑固な事。辟易するほどだ。
仕方が無いので、まず「貴様は阿呆でどうしようもない老人だ!」と言いつづけ、判断思考を鈍らせた後、死んだ後のこと、死後の世界、幸せについて、いかに金が不浄なものであるか、このままでは世界は滅びるので君が必要だ、君は選ばれた信徒だ、等18種類に渡り洗脳を行った結果、老人は転んだ。やっぱりまもなく死ぬやつってのは転びやすいね。


さて、劉璋もあと3国。
と、目を南蜀に向けてみてビックリ。
そ、孫策が、交趾に本陣を構え、建寧に進行中。
我等と劉璋が痛めあっている隙をついて劉璋のケツに食らいつくとは。孫伯符は意外と男らしくないな。嫁さん美人らしいが。
ど、どうする。このままだと劉璋孫策に併呑される。
か、賈ク賈クーッッ!